漢方のちから今、医療の現場で
新型インフル予防に「補中益気湯」2010.7.27
西洋医学も治せぬ患者に
漢方を処方している医師の多くが「漢方薬を飲んでいると風邪をひかない」という印象を持っている。では、本当に漢方は風邪の予防に役立つのだろうか?
これを初めて臨床で確かめた研究が昨年12月、英の医学誌『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル』オンライン版に掲載された。厳密にいえば、対象とした病気は風邪ではなく、豚由来の新型インフルエンザ(H1N1)。昨年9月からの2カ月間、東京都板橋区の愛誠(あいせい)病院で漢方薬の補中益気湯(ほちゅうえっきとう)を飲んだ群179人と飲まない群179人で、感染に差があるかを調べた。結果は、飲んだ群では1人、飲まない群では7人の感染で、有意差があった。
研究を行った帝京大医学部外科の新見正則(にいみまさのり)准教授は「思っていたよりもはっきりと差が出たので私自身もびっくりした」と振り返る。
中止後も感染なし
補中益気湯を選んだのは、補中益気湯は元気をつける薬で、免疫力を上げるとの動物実験も報告されていたからだ。飲む飲まないは本人の希望に任せたものだが、飲んだ群のうち14人は「苦くて飲めない」などの理由で1週間で服用を中止した。「補中益気湯は元気があり余っている人が飲むと、時々違和感が生じる。中止した人たちもその後感染していないことから、この人たちは既に十分元気と考えれば漢方的には納得できる結果だ」と新見准教授。
臨床研究で結果の信頼性が最も高いとされるのは、薬を飲む飲まないを本人の意思と関係なく無作為に割り付け比較する「ランダム化比較試験(RCT)」だ。
今回の研究は無作為ではないだけに、信頼性をさらに高めるためにRCTを行うことが期待されるが、新見准教授は「抗がん剤のように副作用も強く値段も高い薬は、RTで科学的エビデンス(証拠)を追求する必要があるだろう。でも漢方は副作用がほとんどなく、しかも安い。もちろん、この結果をもって補中益気湯がインフルエンザの予防に有効だと結論しようとは思っていないが、信じる人が飲めばそれでよい」というスタンスだ。
試してみる価値
新見准教授は英・オックスフォード大学大学院での留学から帰国した約10年前、「漢方なんていらない」と考えていた。それが血管外科医として患者を診るうちに西洋医学では治せない多くの患者に遭遇、西洋医学の限界を感じる。これらの患者に漢方を処方したところ、4人に3人に症状の改善がみられ、喜んでもらえるようになった。
新見准教授は言う。「西洋医学で治る病気は西洋医学で治療した方がよいが、西洋医学で治らない症状や訴えを持つ患者さんは漢方を試してみる価値がある。漢方嫌いの医師はまだ多いが、困っている患者さんが漢方の恩恵を受けられるように、必要性を理解してほしい」(平沢裕子)
組み合わせで効果アリ
漢方は複数の生薬が組み合わさることで効果があることを新見准教授は動物実験で証明、学会誌『Transplantation(2009)』に掲載された。12生薬からなる柴苓湯(さいれいとう)は心臓移植後のマウスの拒絶反応を抑える効果がある。そこで柴苓湯から一生薬を抜いた柴苓湯を12種類作り、移植後のマウスに与え、拒絶反応が起こるまでの日数を調べた。結果は12種類すべてで本来の柴苓湯のような効果がみられず、薬として12生薬すべてが必要なことを裏付けた。
認知症の周辺症状に「抑肝散」2010.9.28
「持ち越し効果」介護負担も軽減
現在、日本に約220万人の患者がいるとされ、高齢化に伴い増え続けている認知症。主な症状には、記憶力や判断力の低下などの「中核症状」と、抑鬱(よくうつ)や不眠、妄想などの「周辺症状」がある。
中核症状は患者本人にとって大きな問題だが、患者を介護する家族にとっては周辺症状の方がより深刻な問題といえる。お金を盗られたと思いこむ物盗られ妄想、あちこち歩き回って家に帰れなくなる徘徊(はいかい)、昼夜逆転し夜中に騒ぐ...。こうした問題行動を含む周辺症状が在宅での治療を困難にする最大の原因にもなっている。
周辺症状に対してはこれまで、主に抗精神病薬が使われてきた。不眠や不安の解消に高い効果があるためだ。しかし、認知症患者では転倒や死亡のリスクが高まることから、米国で2005年、認知症患者に抗精神病薬を使うのを控えるべきだとする勧告が出された。日本でも使う場合は慎重さが求められている。
涙ながらに感謝
こうした中、注目されているのが漢方薬の「抑肝散(よくかんさん)」だ。もともと小児の夜泣きや疳(かん)の虫など精神的興奮に対して使われていた薬だが、20年以上前から認知症患者にも使われている。
国立長寿医療研究センター病院(愛知県大府市)の鳥羽研二院長も、以前から臨床の場で抑肝散を処方していた。あるとき、患者の家族から「これまで母を殺して自分も死のうと思っていたが、抑肝散で母の症状が落ち着いた。これでまた母の面倒を見ていく気がおきました」と、涙ながらに感謝されたことがあった。「そうか、こんなに効くことがあるのか、と。それならきちんと治験をやった方がよいと思った」と鳥羽院長。
東北大学などで行った比較試験で有効性が確認される中、さらに効果を深く検証するため、関東の20施設でクロスオーバー試験を実施。認知症患者106人をABの2群に分け、8週間の試験期間のうち、A群は前半4週間、B群は後半4週間に薬を服用してもらい、効果を検証した。両群とも薬を飲むことで症状の改善が見られたが、前半に服用したA群では薬を止めた後も4週間効果が持続しており、「持ち越し効果」があることが確認された。
持ち越し効果によって薬を飲まなくてもよい期間ができるのは、副作用の軽減につながるので、患者にとっては大きなメリットだ。また、抑肝散は独特の苦みがあることなどから飲むのを嫌がる患者もいる。こうした患者に薬を飲ませるのは介護者にとっての大きな負担だが、休薬期間ができれば負担軽減にもなる。
さらなる研究を
ただ、周辺症状は介護者の対応が変わることでも大きく改善される。抑肝散で患者が落ち着いたことで、介護者のイライラも減り、患者への対応が変わったことが持ち越し効果となった可能性もある。薬そのものに持ち越し効果があるといえるのか難しい面もある。
鳥羽院長は「高齢者の医療・福祉は日本が世界に先駆けて開発した知識や制度も少なくない。漢方についてもさらに研究を進め、世界に広める必要がある」と話している。
アイスと混ぜ服用しやすく
独特の苦味やにおいのある漢方薬は、その飲みにくさが治療継続の足かせにもなっている。特に粉薬の抑肝散は服用後に粉が舌や歯にくっつき、飲むのを嫌がる患者も少なくない。
ジオ薬局伊賀店(岡山県高梁市)の薬剤師、甲〆(こうじめ)慎二さんは、漢方薬と補助食品の飲み合わせを実験。抑肝散ではアイスクリーム、ヨーグルト、チョコクリーム、ピーナツクリーム、はちみつと合わせることで、かなり飲みやすくなった。甲〆さんは「アイスは冷感で味覚を鈍らせる効果も。どの食材も食べる直前に混ぜるのがポイント。ただ、認知症では服用の無理強いは禁物で、嫌がるときは時間をずらすなど工夫を」とアドバイスする。
めまいや動悸に高い効果2010.8.31
更年期障害の精神神経症状に「加味逍遙散」
漢方薬の使用頻度が他の診療科より高いといわれる産婦人科。特に更年期のさまざまな症状に対して漢方は古くから使われていることもあり、「更年期障害の緩和はホルモン剤より漢方で」と考える女性は多い。長い使用経験からその効能は科学的にも証明されていると思われがちだが、更年期障害に対する漢方の効果を比較試験などで示したデータは、実はほとんどないのが現状だ。
臨床試験で確認を弘前大学大学院医学研究科の水沼英樹教授(産婦人科学)は「これまでの漢方に関する発表論文は『使ってみたら効いた』というものばかり。科学的根拠がはっきりしないので、私自身は患者に漢方を積極的に使うことを躊躇(ちゅうちょ)していた」と打ち明ける。
どちらかというと漢方に対して距離をおいていた水沼教授だが、更年期の精神神経症状(イライラや不眠、抑鬱(よくうつ)、不安など)に対して、漢方薬の「加味逍遙(かみしょうよう)散」がどれだけ効果があるのかを探るため、28施設に協力を呼びかけ、ホルモン補充療法(HRT)との比較試験を実施した。医療用漢方メーカーの担当者から「漢方が効かないというのなら、本当に効かないのか臨床試験で確認してほしい」と言われたことがきっかけという。
加味逍遙散は、「当帰芍薬(とうきしゃくやく)散」「桂枝茯苓(けいしぶくりょう)丸」とともに3大婦人漢方薬として定評がある。更年期障害の中でも主に精神神経症状を訴える場合に用いられてきた。HRTは閉経前後に急激に減少する女性ホルモンのエストロゲンを補う治療法。ほてりやのぼせ、冷えには高い効果があるが、精神神経症状での効果は4割ほどとされる。
偽薬との比較を検討
比較試験は、更年期障害と診断された閉経後の女性103人が対象。これらの女性を加味逍遙散、HRT、併用(加味逍遙散+HRT)の3グループに無作為に分け、抑鬱、不安、不眠の症状が4週後、8週後にどれだけ改善したかを比較検討した。結果は加味逍遙散にHRTと同等の効果があることが確認された。
特にめまいや動悸(どうき)、イライラについては加味逍遙散の方が効果が高かった。一方、発汗や中途覚醒(かくせい)ではHRTの方が効果があった。また、HRTでは胸のはりや出血などの副作用が出た人がいたが、漢方ではこうした副作用はなかった。ただ、今回の試験ではプラセボ(偽薬)群をおいていないため、効果が漢方の薬効によるものなのか、薬を飲んだ“プラセボ効果”によるものなのかは分からない。
結果を受け、水沼教授は加味逍遙散とプラセボによる比較試験を企画している。プラセボ用の薬は見た目も味も加味逍遙散とそっくりのものを作り、参加者にはどちらを飲んだのか分からないようにする。水沼教授は「更年期障害と漢方の研究はやっと端緒についたところ。効果が確認できれば漢方の中のどの成分が効いているのか探ることも必要だろう」と話している。
【用語解説】 更年期
女性の閉経をはさむ前後約10年間を指す。この時期に起こるのぼせや発汗、頭痛、イライラなどの症状が日常生活に支障をきたすほどつらい場合、更年期障害として治療の対象となる。欧米では更年期女性の約30%がHRTを受けているが、日本では数%。その背景に漢方の利用があるとみられ、「女性の健康とメノポーズを考える会」のアンケート(平成18年)では、更年期症状の緩和に漢方を使ったことのある人は176人中77人おり、更年期女性の半数近くが漢方を利用していた。
抗がん剤の副作用軽減「六君子湯」「牛車腎気丸」2010.10.2612:
世界へのエビデンス発信期待
人口の高齢化で増え続けているがんの罹患(りかん)数。がんの治療でつらいのが、抗がん剤によって起こるさまざまな副作用だ。漢方薬には抗がん剤の副作用軽減に効果があるとされるものがいくつか報告されている。中でも注目されているのが、吐き気や食欲不振など消化器症状を改善するとみられる六君子湯(りっくんしとう)だ。
食べる喜び再び
六君子湯は約500年前に処方が確立したもので、胃弱や食欲不振の人に使われてきた。体力が低下したやせ形の中高年女性に使うとよく効くとされる。しかし、なぜ効くのか。その作用機序がよく分かっていなかったこともあり、これまでは漢方に詳しい少数の医師が細々と使っていた程度だった。
それが平成11年、グレリンという食欲関連ホルモンが発見されたことで、食欲調節メカニズムの解明が進み、六君子湯になぜ効果があるのかも少しずつ説明できるようになった。グレリンは主に胃から分泌されるホルモンで、食欲増進に関係のある唯一の消化管ホルモンといわれる。抗がん剤を使うとグレリンの分泌量が減ることが分かっており、食欲不振となる原因の一つと考えられている。
ネズミを使った実験では、六君子湯にグレリンの分泌量を増加させたり、脳の中のグレリン受容体を増やしたりする作用があることが分かっている。これらの結果を踏まえ、埼玉医科大学総合医療センター消化器・肝臓内科の屋嘉比(やかび)康治教授は今、抗がん剤で食欲不振となった患者に六君子湯を飲んでもらい、食欲がどれだけ回復するかをみる臨床試験を行っている。
「食欲は生きる意欲や幸福感につながるもの。とくにがん患者さんにとって、食べられるようになるかどうかは命に直結する。食欲回復に効果がある六君子湯の有効性を科学的に証明したい」と屋嘉比教授。
46施設で効果検証
一方、大腸がん患者に投与される抗がん剤「オキサリプラチン」の末梢(まっしょう)神経障害に牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)が効果があるかどうかを検証する二重盲検(にじゅうもうけん)の第3相試験が、厚生労働科学研究費を得て今年度から全国46施設で、九州大学消化器・総合外科の掛地吉弘准教授を研究代表者に行われている。末梢神経障害にはしびれなどの症状があるが、中には水に触れるだけで痛いという人もいる。抗がん剤を減量すれば症状は軽減するが、それではがんを抑える効果が損なわれる可能性がある。
同大教授で日本癌(がん)治療学会の前原喜彦理事長は「これまで漢方は西洋薬のような比較試験が行われておらず、本当に効果があるのか分からない面も多かった。今回の比較試験では見た目も味も全く同じ偽薬を対照薬として使っており、有効性が証明されれば世界に向けても発信できるエビデンス(科学的根拠)となる。抗がん剤の副作用に悩まされている人は世界中にいるだけに、いい結果を期待している」と話している。(平沢裕子)=おわり
【用語解説】二重盲検薬効のないプラセボ(偽薬)を薬だと偽って投与されたとき、患者の病状がよくなることがある。これを「プラセボ効果」というが、薬の本当の有効性を検証するにはプラセボ効果を除去する必要がある。プラセボ効果を除去するために考えられた試験方法が二重盲検。薬を処方する医師と患者の両方に、薬効がある「被験薬」と薬効のない「プラセボ」のどちらを使っているか分からないようにして薬の効果を確かめる。漢方薬では大建中湯(だいけんちゅうとう)でも二重盲検の比較試験が行われている。
上記は産経新聞ニュースより
[提言]漢方剤としてのミミズの研究
(第735回、一木三水会2008年4月3日講演)京都大学名誉教授 鍵谷 勤
ミミズは1億2000万年前から生息していたようである。地球上には約3000種類のミミズが生存しているといわれる。日本では30年前(1975年)に農業の土壌改良や釣り餌としてアカミミズ(学名:ルンブリクス・ルブルス)が飼育された。
1.「ミミズは雌雄同種」:ミミズの染色体を調べると、性染色体が存在しない。このことから、ミミズは雌雄同種であることがわかる(以上は中村方子著「ヒトとミミズの生活誌」より)。
2.「環境とミミズ」:「沈黙の春」(レイチェル・カーソン著)によれば、ミシガン大学の構内には約370羽も生息していたコマドリが4年後には1羽もいなくなったしまった。その原因はキクイムシを殺すために撒いた殺虫剤を含んだ落ちた葉や土を食べたミミズによって殺虫剤が体内で濃縮され、このミミズを食べたコマドリが死んでしまったという。ニレの木を枯らすオランダニレ病の対策として、その菌を運ぶキクイムシを殺すために撒布した殺虫剤が原因であった。殺虫剤で汚染されたミミズを食べたコマドリが死んでしまったのである。コマドリが死ぬ殺虫剤の毒量はミミズ10匹分であるとのことであるが、ミミズが生息する環境の汚染の問題を提起した事件であった。
3.「食用ミミズ」:インドでは男性の精力剤として用いられているが、その理由は全身の血流の促進にあるという。食用としてのミミズはニュージーランドの小島のミミズで8種類あるといい、そのうちの2種類は格別の味で、その美味しさは食べてから2日も残るほどで、酋長だけのために特別に保護されているという。中国・広州でも食用ミミズを養殖しているそうである。
4.「漢方薬としての乾燥ミミズ(地竜)」:漢方では、熱湯をかけてから日光で乾燥したミミズを煎じて熱さましとして服用されている。地竜の薬効作用としては、解熱の助長、気道の拡張、痙攣の予防、ならびに利尿などであると述べられている。地竜の解熱作用の有効成分は皮の部分にあるルンブロフエブリンという物質であると報告されている。また、利尿効果は、腎臓の血流改善によると考えられている。
5.「糖尿病と地竜」:宮崎医科大学名誉教授美原恒博士の書「血栓は倒れる前に溶かせ」(東洋医学舎)によると、生活習慣によるII型糖尿病(I型:遺伝的なインスリン分泌不足)は膵臓のランゲルハンス氏島から分泌されるインスリンというホルモンの低下によって発症する生活習慣病であるが、地竜の服用によって血流が改善され、ホルモンの分泌がよくなってインスリンが産生されると考えられている。
6.「血栓を溶解するルンブロキナーゼ(酵素)」:ご自身の経験に基づいて書かれた東京農業大学栗本慎一郎教授の「血栓を溶かし梗塞を予防しようー驚異の酵素の発見―(東京農大出版会)」によると、脳梗塞や心筋梗塞は血栓による血管障害病である。脳梗塞は脳内の血管が詰まって、その先の神経線維やそのつながりの神経回路に酸素や栄養が運ばれなくなった病気である。
頭蓋骨内の大動脈のうちの中大動脈がもっとも詰まりやすく、「小さい穴」という意味のラクナ地域の神経回路に血液と栄養を運んでいる最細小動脈が詰まるラクナ梗塞は日本人に多いという。この病気の患者に対してはグリセオールやマンニトールなどの多糖類が点滴投与される。血小板の凝集を防ぐためにオザグレルナトリウムや血栓ができるのを防ぐヘパリンの点滴が行われることもある。しかし、脳内出血を起こす危険性があるヘパリンは重症患者には使用できない。
ミミズのルンブロキナーゼは血栓を溶かし、症状が現れなくMRIにも見えにくい微小のラクナ梗塞を予防すると考えられている。フイブリンだけを溶かしてフイブリン分解物質に変えて血流に流し出すルンブロキナーゼは優れた血栓予防剤である。
脳卒中は脳出血と「くも膜下出血などの頭蓋内出血と脳梗塞に分けられる。脳梗塞には原因となる血栓のでき方によって、太い脳動脈が詰まるアテローム血栓性脳梗塞と脳の深部の細い動脈が詰まるラクナ梗塞がある。このほかに、脳塞栓(心原性脳梗梗塞)がある。心原性脳梗塞というのは心臓などの脳以外の部位に生じた血栓が脳の動脈に流れてきて動脈をつまらせることが原因となる脳梗塞である。
また、脳梗塞で詰まった血栓が自然に溶けて再び血液が流れ、その際に動脈から血液がにじみ出て脳内に出血する状態(一過性虚血状態)を出血性脳梗塞という。脳卒中は次のように分類される。
1.頭蓋内出血―>1.脳出血
脳卒中―>2.くも膜下出血
2.脳梗塞――1.脳血栓―>アテローム血栓性脳梗塞
―>ラクナ梗塞――
2.脳賽栓(心原性脳梗塞)
46歳の若さで急性された高円宮殿下の死因は、心臓が痙攣を起こした(心室細動)状態で血液が送り出せなくなった心臓停止と同じ状態である。スポーツに自信がある中高年の人の激しい運動に起因する病気である。
「ミミズの止血機構」:ミミズの止血機構を研究したのは宮埼医科大学名誉教授の美原恒博士である。博士の書「血栓は倒れる前に溶かせ」(東洋医学舎)には、食用ミミズ(ルンブルクスルベルス)の止血機構が詳しく述べられている。
血管が傷ついて破れて出血すると血小板細胞が集まってきて固まって血を止める。これが血栓である。タンパク質のフイブリノーゲン(線維素原)はトロビンというタンパク質分解酵素によってフイブリン(線維素)に変化して固まって傷口を補修する。血栓はプラスミンという線溶酵素によって溶解して血行を回復する。血管の内側の内皮細胞が剥がれると、破れていない血管内にできる血栓のコラーゲンが露出する。これに血小板が集まってフイブリンもでき、血管を塞ぐのが血栓症である。「血栓は倒れる前に溶かせ(株)東洋医学舎」。
「ヒトの止血作用(血栓)」:血管が破れて出血すると血小板という細胞が集まってきてくっつきあって出血を止める。血液中のフイブリノーゲン(線維素原)というタンパク質がトロンビンというタンパク質分解酵素によってフイブリン(線維素)という固体に変化し、それによって血液が固められる(血栓)。この血栓はプラスミンという線溶酵素の作用によって溶解する。出血していないのに血管内に血栓をつくり、それを溶かす線溶活性が弱いときの状態が血栓症である。脳血栓で倒れた高齢者の血液内の線溶酵素活性は低い。これが脳梗塞や心筋梗塞などの血管病の原因となる。
「脳梗塞になりやすい人」:高血圧、動脈硬化、喫煙習慣、糖尿病、肥満、高脂血症、運動不足などの人は脳梗塞のリスクが高い。2000年4月に小渕総理が倒れたのは脳梗塞が原因であった。
ちなみに、出産するときに止血剤として使った薬品のフビリノゲンに混入したウイルスによる薬害が社会問題になったことは記憶に新しい。最近は出産時の止血のためにアスピリンやヘパリンを使用することが行われている。
ウロキナーゼという注射薬は血栓を溶かすが、一人1回分のウロキナーゼを作るためには1ドラムの尿を必要とし、5日間の治療には100万円もかかる高価なものである。また、持続性がなく、適正な投与量を選ばないと血管までも溶かして内出血を起こす危険性がある。
ミミズの一種のレッドウオーム(学名:ルンブルクスルベルス、日本名:赤ミミズ)の腸や体液にはウロキナーゼと同じようにフイブリンを溶かす酵素が含まれていることが美原恒博士によって国際止血学会で発表された(1983年)。これがミミズから取り出した血栓溶解酵素である。これはウロキナーゼのような内出血を起こさず、血栓のもととなるフイブリンだけを溶かし、止血作用のあるフイブリノーゲンを保護すると言う。
倉敷芸術科学大学教授監修・中島公男著:「恐怖の心筋梗塞!元凶は「血栓」にある(ダイセイコウ出版・発行、ぶんぶん書房発売)には、血栓はどうしてできるのか?恐怖の脳梗塞・心筋梗塞、線溶活性を持つミミズの酵素、ルンブルクスルベルス(LR末)の製法、臨床試験で実証されたLR末の効果、患者の感想などが詳しく述べられている。
小渕元総理の突然の死は、同年代の男性にショックを与えた。国会議員の栗本慎一郎教授も「脳梗塞・糖尿病を救うミミズの酵素(たちばな出版)」でご自分が病気から救われた経験を書いている。血栓は、傷ついた血管から出血を防ぐ血液凝固物質であるが、血栓で血管が詰まる血栓症は成人にありがちな過度な血液凝固は脳や心筋の梗塞の原因となる。高血圧、糖尿病、高脂血症、心臓病などの人は脳梗塞を起こしやすいが、血栓が直ちに溶ければこれらの血栓病を防ぐことができる。
「血管の止血および血液正常化までの過程」は次の6つの過程からなるとされている。
1.出血:血圧・異物・どろどろになった血で傷ついた血管が破れて出血する。
2.止血;血小板が血管の破れたところに集まり、フイビロノーゲン(線維素原)と共に作用して出血を止める(一時止血)。
3.凝固:一時止血の後、フイブロノーゲンがトロンンビンの作用によってフイブリン(線維素)を生成する。フイブリンは止血を促進し、出血部分を治癒する(二次止血)。
4.修復:フイブリンが形成された後、フイブリンを足場にして血管細胞が増殖し、破れた血管を修復する。
5.線溶:血管が修復すると、直ちに血液中のプラスミノーゲンが内皮細胞から供給されるプラスミノーゲン・アクチベータによって活性化され、プラスミンが生成する。このプラスミンがフイブリンの塊(血栓)を溶かし、フイブリン分解産物を産出して血流を正常にする。
6.血流の正常化:ミミズ線溶酵素を飲用しているヒトの血液中のプラスミノーゲン・アクチベータは、飲用していないヒトの約10倍も多い。これはフイブリンを溶解する性質が非常に高いことを意味する。
「ミミズの線溶酵素」:ミミズの線溶酵素は、ヒトの腸の中でタンパク質を分解するキモトリプシンと似た酵素ではなく、新しく発見されたタンパク質分解酵素である。
「血栓ができやすい内皮細胞」:内皮細胞はすべての血管の一番内側にあって、敷石のようにビッシリ覆っている細胞で、正常であれば血液が詰まることは無いが、何らかの原因によって内皮細胞がはがれると血管壁のコラーゲンが露出(内皮細胞障害)し、はがれた部分に集まってきて互いにくっつきあってくる。
これにフイブリン(線維素)もできて血塊(血栓)は大きくなり、ついには血管を塞いでしまうのである。
線溶(線維素溶解)系の線維素を溶解する酵素の活性化機構:血液が凝固してフイブリンが析出すると、これに反応して内皮細胞からt・PAやu・PAなどのタンパク質分解酵素を分泌して、プラスミノーゲンというタンパク質をプラスミンという活性な酵素に変換し、これがフイブリンやフイブリノーゲンを分解する。線溶系が活性化し過ぎるとフイブリンまでも溶かして出血を起こしてしまう。そのため、活性化しすぎないように抑制する機構が働く。このように、線溶系には活性化と抑制がバランスして出血を防いでいる。
「本格焼酎の血栓溶解酵素活性」
血栓溶解酵素はアルコールによって活性化される。活性化の度合いは、
乙種焼酎>日本酒>ワイン>ウイスキー>ビール>禁酒
である。乙類焼酎とは1回だけ蒸留した焼酎のことで、本格焼酎と呼ばれている。酒類の血栓溶解酵素の活性は、
本格焼酎の不揮発成分>>日本酒の不揮発成分>エタノール
の順で、ウロキナーゼ分泌の順序と一致する。本格焼酎が勧めえられる所以である。
7.私たちの研究:私は20年前から、中国・西安市の第四軍医大学と「動物由来物質の漢方剤「ジリュウエキス912」に関する共同研究」を行っている。生きたミミズを水中ですりつぶし、低温で抽出したものを凍結乾燥して得られた粉末(地竜エキス)をカプセルに詰めて放射線滅菌したのが漢方剤「ジリュウエキス912」で、原料は乾燥ミミズを煎じた地竜と同じである。ジリュウエキス912は約_3%のミネラル(カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛など)を含んだ80%のタンパク質と20%の糖質から成る一種の金属酵素で、過酸化水素分解活性や脂質の抗酸化作用があることがわかっている。
私はミミズのほかに、蚕、ヒル(蛭)、ゴカイ、岩虫、蛤やアサリも調べたが、一番活性が高いのはヒルであった。ヒルのタンパク質に抗がん性があることはイギリスの新聞に出ていたことがある。
ミミズの有効成分の紫外線吸収スペクトル:分光学分析によると特定な吸収光度と活性の間には一定の関係があったのでこの吸収光度を測定すると活性が予測できる。
たかがミミズ、されどミミズである。ミミズから抽出した「912」には血液をサラサラにする素晴らしい効果があることが示された。
血栓が原因となる脳梗塞や心筋梗塞などの血管系の病気による1年間の死亡者数は、がん死亡者数と同じ約60万人である。平成5年度の調査によると、脳
梗塞などの脳血管病患者数は142万人(男性:69万人、女性:73万人)で、がん患者数の91万人(男性:44.3万人、女性:46.6万人)の1.6倍も多い。ミミズは血栓由来の恐ろしい血管病の予防や治療の妙薬である。
おわりに:われわれになじみ深いミミズの主として漢方剤としての研究を述べた。たかがミミズされどミミズである。ミミズの血栓病の予防や治療にすぐれ効果に驚かされる。
[基原]
ルムブリクス科蚯蚓(ミミズ)の全体を乾燥したものです。
[性味]
味は鹹(からい)、性は寒。
[主成分]
ルンブロフェブリン、ルンブリチン、多種のアミノ酸。
[薬理作用]
解熱、気管支拡張、降圧、溶血、痙攣性収縮、利尿・活絡
[臨床応用]
(1)高熱、煩そう、痙攣時の解熱、鎮痙。
(2)気管支喘息。気管支を拡張し、痙攣性咳嗽を軽減します。
(3)高血圧症。降圧・症状改善の効果があります。
(4)脳卒中に伴う煩そう、四肢の運動障害、大便や尿の排泄障害、後遺症の運動麻痺に。
(5)打撲損傷の内出血による疼痛、とくに腰背部損傷の疼痛・腰腿部の疼痛に。
(6)脳梗塞、心筋梗塞、狭心症、動脈硬化に。
[使用上の注意]
(1)脈が虚で泥状便のとき(陽虚)には用いないでください。
(2)解熱作用の程度はアンチピリンよりやや弱い。